2夜連続の打線爆発でヤクルトに連勝!粘投のドラ1高橋は早くも2勝目。「高橋優貴は目が離せないルーキーである」【4.24@神宮】

 この場面、打たれたらどうなるかわからないぞ......。
 5回1死一塁・二塁で迎える打者はバレンティン。マウンドの高橋優貴は疲労を隠せないでいる。得意のスライダーは抜け気味で、ストレートもおじきしている。2回に挙げた5点の先制点は大きかったが、そのリードも神宮球場では"たった5点"と心もとない。バレンティンの一振りで何もかも吹っ飛ぶんじゃ......。と春雨を切り裂く放物線が脳裏をよぎった。

 この場面でベストピッチが出てしまうのだからたまらない。
 フルカウントに追い詰められながらもストライクからボールになるスクリューで空振り三振。次に迎えた雄平は得意のスライダーで詰まらせてサードフライに仕留めた。これでデビューから得点圏では未だにノーヒット、防御率は驚異の1.10まで良化した。もしかして、吉川尚輝に続いて外れ外れ1位が実は大当たりのパターンなのか?と興奮するジャイアンツファン(私)。

 もちろん、いづれイムリーは打たれるし四球で溜めたランナーから強烈なしっぺ返しを受ける試合もあるだろう。別に、急に悲観的になったのは吉川光夫の砂遊びピッチングを見たからではない。それは、60年ぶりに大卒新人初登板初勝利を挙げたからといって、イコール半世紀に1人のルーキーとはならないのと同じだ。

 ただ、高橋優貴は新鮮なルーキーだ。
 2010年代のジャイアンツのドラ1は極端だった。沢村や菅野、長野のようにプロ入り前から活躍を約束された選手もいれば、満足にプレーするまもなく故障してしまうルーキーに別れた。高橋はそのどちらでもない。加えて、マツリューのように罪の十字架を背負おう、じゃなくて小林誠司のように「偉大なる先代の跡継ぎ」という重い十字架を背負っているわけでもない。
 
 異質なドラ1・高橋優貴は順調にキャンプを消化してオープン戦でも無難にアピールした。それは新鮮であり刺激的でもあった。「ジャイアンツのドラ1が普通だよ」という具合に。

 その高橋はピッチングでも刺激的だ。良くも悪くも目が離せない。
 あなたは高橋の初登板を覚えているだろうか? チームは4連勝中で4回までに6点のリードを奪い、相手は貧打の阪神打線でジャイアンツファンは楽勝ムードに酔いしれてた。そんななか、マウンドの高橋は一生懸命に腕を振っていた。コントロールが良くないからストライクが増えればその分ボールも増えて球数は嵩んでいく。でもリズムよく投げるから不思議とテンポは悪くならない。だから球場のファンは試合展開を度外視して、挨拶代わりとなるそのピッチングを見ることができた。

 目が離せないドラ1。それはルーキーイヤーの菅野のように完成度が高くて安心できるわけでもなく、そもそも1軍にいなくて目に入らないというわけでもない。次の1球がストライクなのかボールなのかとドキドキしながら待つことができる。期待と不安が混じり合う。別にファンがマウンドがにいるわけじゃないのに、いるかのような臨場感を楽しめる。その臨場感を支えているのは、どれだけ四球でランナーを溜めようと腕の振りを緩めてストライクを取りにいこうとしない高橋の強心臓だろう。これが高橋優貴の1番の才能だと個人的に思う。

 もっとも、目が離せないのはマウンド上だけではない。
 プロ初タイムリーの感想を聞かれて「何を打ったかわかりません」という初々しさはもちろんルーキー特権で見逃せないが、私が最も印象深いのがヒーローインタビューを終えた直後の表情だった。つつがなく受け答えして「明日も応援よろしくお願いします」と定型文で締めた刹那の、緊張から解き放たれたはにかんだ笑顔は印象的だった。それはヒーローインタビューを受けることが充実感に変わっている前日の山口俊とは違う。高橋のそれは、インタビューが苦手で慣れていない4月のドラ1の表情だった。ささいな表情の移り変わりから目が離せないのも今のうちだ。